呼び名が関係性を表すという体験

この1~2か月の間に、2つほど、呼び名に関わる面白い体験をしました。

ひとつ目は総勢4人で食事をした時のこと。私の他に私のセミナー同級生が1人、私のセミナー受講生が2名で、セミナー同級生の女性とセミナー受講生の1人が友人という、関係性が異なる人たちとの食事会での体験です。

セミナー同級生によれば、自分以外の2人が私を「せんせい」と呼ぶのが不思議な感じがしたと言うのです。これを聞いて、私は人間関係についての想いをめぐらすところとなりました。

仕事がら「せんせい」と呼ばれることが多く、かつては「先生と呼ばないでください」とお断りしていましたが、最近は「せんせい」と呼ばれたほうが適切なTPO、関係性もあると思えるようになり、あまり断らなくなったという背景があります。

セミナー中には肩書きをはずした名前、ニックネームで呼び合うよう奨め、奨められることがあります。そうしたセミナーで知り合った人とホテルで待ち合わせをしたところ、本名が分からず、フロントでの呼び出しに困ったという笑えない体験もあります。

それほど親しくはないのに親しげに呼び合って不自然でないのは、「立場や肩書が意味をなさない集まり」であるとか「人間関係を学ぶワークショップ」であるとか、文脈がはっきりしている場合にかぎります。

人と人がおつきあいする時には何かしらのTPO(時・場所・オケージョン)があり、おつきあいの始まりやプロセスに即した関係性があるわけで、そのTPO、関係性にふさわしい敬称を添えたり、名前やニックネームで呼びあうのは意外に大切なことだと、思うようになった次第です。

ゆっくり、じっくり、関係を深めるのなら

それはマナーということではなく、人間関係を真面目に考えてのことです。つまり、呼び名によってその時々にふさわしい距離を保つことができれば、ゆっくりと安心して人間関係を深めていけます。もちろん、深めない、親しくならないという選択もできます。

社会的な立場を越えたおつきあいのほうが、立場に依るおつきあいよりも人間らしいという考え方には賛成ですが、だからといって、誰とでも立場を越えた人間らしいおつきあいをすることもありません。相手がどのような人なのか、よく知り合ってから、じっくりと関係を深めていくような丁寧なつきあい方が私の好みです。

マナーの点からも、呼び名によって「私は現在の関係性をふまえた呼び名でお呼びすることで、あなたを尊重しています」というメッセージを送ることができます。尊重のある関係性という文脈があればこそ、時には無礼講も許され、結果的に人間関係を深めていけるのではないでしょうか。

さらけ出せば、いいってものでもない

人間関係やコミュニケーションをテーマにするセミナーが増えていて、そうしたセミナーではたいてい、自分をオープンにすることを奨めます。私もそうしたセミナーを担当する時には、もちろん奨めます。

ただし、オープンにするということは、なんでもかんでもさらけ出すことではなく、その時その場における自分の気持ちや思いや考えに気づいていて、その時その場での気持ちや想いや考えを必要十分に表出できることを意味するはずです。

そして、必要に応じては、表出しないことを選択できることです。さらに、その時その場にいる人たちがその時その場での表出したりしなかったりする選択を尊重できることでもあると思います。

呼び名は変わらないし、変わるという体験

ふたつ目の体験ですが、最近の私はペンネームである「そのまさん」と呼ばれることが多く、私がそう呼ばれるのを聞いていた古い友人が「なんか、変・・」と述べた体験です。

彼女は、私が駆け出しのコピーライターをしていた20代の頃、仕事を教えてくれたメンターです。その頃、私は彼女の仲間うちから「わんちゃん」と呼ばれていました。そこで、彼女にとって、私はいつまでも「わんちゃん」であり、私を「わんちゃん」と呼びます。

私も彼女から「わんちゃん」と呼ばれるのは、なつかしくてほっとします。が、20代の私ではなくなった今の私は「そのまさん」のほうが現実味を感じます。ある意味では、「わんちゃん」は私のキャリアの記念碑ですから、その頃の友人ではない人に「わんちゃん」と呼ばれるのは不愉快な感じです。

同じように、「なおちゃん」と呼ばれるのも嫌いです。子供の頃、家族から「なおちゃん」と呼ばれていたからです。

子供の頃の名前で呼び合うというセミナーに参加したら、その時の同級生は私のことを「なおちゃん」と呼ぶようになりました。成り行きからは仕方のない流れと分かっているものの、セミナーが終わったら、たとえば「なおみさん」と呼び改めて欲しいと内心で思っています。いずれ、折を見て、セミナー同級生たちにお願いしようと思っています。

ちなみに、大学の同級生は私を「なお」と呼びますが、大学の頃の無邪気な自分に戻れるようで、嬉しいですね。だからと言って、大学の同級生以外の人から「なお」と呼ばれたら、気分がよくない感じです。

呼び名を丁寧に扱うということ

ついでながら、TPOや関係性が変わると、呼び名は変わります。たとえば、子供ができると夫婦の呼び名は「パパ」「ママ」へと変わることが多いですね。長年のおつきあいを経ても、呼び名が変わらない関係が大切なのと同じように、TPOや関係が変わって呼び名が変わる関係も楽しいものです。

自分はどの呼び名で呼ばれ、相手をどの呼び名で呼ぶと快適な関係が生まれ、成熟した関係へと育てていけるのか、呼び名ひとつについても丁寧に扱うことによって、様々な人との様々な関係を豊かに築いていきたいものです。

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