2010年、今年がまもなく終わります

ゆく年をふりかえりながら、「ノルウェイの森」の村上春樹さん訳の
トルーマン・カポーティ原作「ティファニーで朝食を」を読んでいます

というのも、このクリスマスに
海外出張中の友人からメールが届いたのです

クリスマスの夜更けにロンドンに到着し、数日の滞在の後
大西洋を越えて、ニューヨーク(N.Y.)へ渡るのだとか…
ロンドン-ニューヨーク便の機中では
映画「ティファニーで朝食を」を鑑る予定、と締めくくられていました

心が騒ぎました

「ティファニーで朝食を」はもしかしたら、私にとって
人生のモティーフともいえる作品だからです

折しも、この12月15日、映画「ティファニーで朝食を」を監督した
ブレイク・エドワーズさんがサンタモニカの病院で亡くなったばかりです
「ピンク・パンサー」でも知られるエドワーズさんは享年88歳
妻のジュリー・アンドリュースさんが看取られたそうです

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この映画をはじめて観たのは、たぶん17歳の年

主人公ホリデー・ゴライトリー(通称ホリー)はほぼ19歳の
いわゆる娼婦でしたが、映画では、ヘップバーンのイメージに併せて
社交界でもてもての新人女優、という設定が強調されています
ヘップバーンによる役作りも、原作よりもキュートだと思います

原作者カポーティは、マリリン・モンローを主人公にすることを望みました
けれども、娼婦役を演じることを嫌ったモンローが出演を断り
ヘップバーンが選ばれたわですが、このキャスティングはむしろ
娯楽文化である映画にとって、成功の要因になったと思えます

ともあれ、原作よりもマイルドな役作りのホリーでしたが
当時、箱入り娘だった高校生の私の目には
十分に自由奔放でセクシーで、驚きとともに羨ましくもあり
憧れのライフスタイルとして、強いイメージが刷り込まれました

ティファニー宝石店のファンになったのもこの時から・・・

宝飾品にはそれほど興味がない今も、自由とロマンの象徴である
ティファニーのジュエリーは、お守りのようにつねに身につけています

大学に入学して、親元を離れて、環境的にも精神的にも
自由を楽しめるようになった頃
トルーマン・カポーティの原作を読み直しました

とても複雑な気持ちになりました

映画は、ヘップバーンとジョージ・ペパードの恋物語に
「変換」されましたが、原作は立派な社会派小説であると理解しました

資本主義へのカポーティ流のレジスタンスとも評されているし
戦後アメリカの繁栄とその影に揺らぐ、大衆のストレスとカタルシスが
行間に渦巻いているような、軽妙にして重たい小説です

誤訳だらけと酷評される旧訳…
にもかかわらず、原作の深さに心動されながらも、特に小説の結末と
映画の結末とのあまりの違いに、動揺にも似た葛藤がおこりました

二十歳前の少女にとっては、”白馬の王子さまがやってくる”ような
映画の結末には、それなりのスィートさと安心感があるものです

一方、小説の結末は、かなり特異な展開にもかかわらず
映画よりもうんとリアリティがありました

映画のスウィートなハッピーエンドと原作のリアリティの間で
若い日の私は揺らぎました

やがて、あれはあれ、これはこれ
別の作品と割り切れる年齢を迎え、それぞれに楽しめるようになりました

そして、2008年に「ノルウェイの森」の村上春樹さんが新訳を出され
話題になったものの、忙しさに紛れ、まだ読んでいませんでした

ティファニーで朝食を

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積ん読いた村上本を開くきっかけを作ってくれたのが
N.Y.出張中の友人からの1通のメールであったのは
主人公ホリーと、10日ほど前に亡くなったエドワーズ監督の
はからいのような気がしてなりません

そして、新訳「ティファニーで朝食を」を再読してみて
原作も映画も人が言うほど、違う物語ではないことに気づきました

つまり、どちらも居場所探しの物語であるということ

ヘップバーン扮するホリーがギターを弾きながら
「ムーンリバー」を歌うシーンは映画版の見どころです
その歌声は、ホリーの夢と孤独を表現するかのように
頼りなくて、せつなくて、心にささります

原作のホリーはいつまでも理想の居場所を探して、さすらい続け
映画のホリーは日常での居場所を(とりあえず)見つけて、落ち着いた
…という筋書きの小さな違いにすぎません

そして、少女の頃に出会った、居場所を探し続けるホリーと重なる人生を
これまで、生き続けてきたような気もしてきました

ホリーの名刺の住所が「Traveling(旅行中)」であることにあやかって
「悠木そのま Traveling」という名刺を作ったこともあります

さすがに、その名刺をティファニー宝石店で作るというところまでは
真似をしませんでしたが、我ながら笑い話です

いずれにしても、1通のメールが機となって
村上春樹訳「ティファニーで朝食を」と出会い
映画と原作、2人のホリー・ゴライトリーに訣別して
ほかの誰でもない、自分自身を生きてみたくなりました

居場所は探すのではなく、創るもの

さすらうこともなく、日常に落ち着くこともなく
自分を偽らず、でも、大切な人たちと共生して生きることの
難しさから逃げずに向き合っていこうと、小さく決意しました

人生のモティーフを見直すきっかけを、クリスマスの夜に
プレゼントしてくれた友人はまもなく、お正月の日付変更線を越えて
ティファニー宝石店のあるN.Y.から帰ってきます

大切な友だちの、無事な帰国を心から祈る年の瀬です

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One Response to “村上春樹訳「ティファニーで朝食を」”

  1. […] ークを迎えた年末 海外出張中の友人から届いた1通のメールがきっかけで 村上春樹訳「ティファニーで朝食」をひもとくところとなり ゆとりも遊びも失った心に、爽やかな風が吹き抜 […]

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