>「手嶋龍一流リーダーの条件(上)」からの続き

 

ブラック・スワンとは、黒い白鳥のことです。

かつて、欧州では白鳥と言えば白いものと思われていましたが
オーストラリア大陸が発見された時、そこに黒い白鳥がいることが分かり
白鳥は白い…という常識が覆されてしまいました。

つまり、ブラック・スワンとはほとんどありえない事象
予想しなかった事象を象徴する言葉として、使われます。

ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質

外交ジャーナリストで作家、慶応義塾大学大学院 教授の手嶋龍一さんは
4/13(水)、名古屋三田会春の集い 講演会で、次のように語られました。

「いま、FUKUSHIMA(福島)にはブラック・スワンが舞い降りていて
世界中が、FUKUSHIMAをHIROSHIMA(広島)と重ねて見つめています」

「ブラック・スワンが天空に姿を見せた時、国家の、企業の指導者たちは
いかに立ち向かうか。これこそがクライシス・マネージメントの核心です」

講演会で語られたお話は、「福島原発」対論(上・中・下)」でも
公開されていますので、抜粋しながら、講演の内容をご紹介していきます。

 

———————————-以下、(上)から抜粋

日本のフクシマではいま、尋常ならざる事態が起きつつある、と
諸外国は疑いの眼差しを向けている。

アメリカの統帥部は、第7艦隊の隷下にいた原子力空母
「ロナルド・レーガン」を真っ先に東北沖に急派した。

「ロナルド・レーガン」に乗せてもらったことがあります。

まず見せてくれたのは、炉心溶融が起こった時に対応する防護チームでした。
そういう危機対応チームが控えている船員を乗せた原子力空母を
差し向けたアメリカの真意はもうお分かりでしょう。

これほどの危機に立ち向かう日本の政治指導部そのものが
メルトダウンしているのではないかと疑っているのでしょう。

「アメリカがお手を貸しましょう」と申し入れたのですが
菅内閣はこれを事実上拒否してしまう。

ワシントンで正式な外交ルートを通じて日本側に打診したのですが
日本側は明確な返答をしなかったようです。

———————————-以下、(下)から抜粋

首相官邸の機能不全は国民だれの目にも明らかになっています。
国際社会も指導力の欠如を「リーダーシップのメルトダウン」と呼んで
不安視しています。

危機の指導者として適確性を備えていない首相に舞台から降りるよう促す人が
誰もいないというのもいまの日本の政界を象徴しています。
霞が関の官僚機構も半ば崩壊して、サジを投げかけている状態です。

ここまで日本の政治的リーダーシップ全体が劣化してしまうと
自民党と入れ替わったところで、打開はまず無理でしょう。

今や世界中から「日本は当事者能力がない」と見られており、
アメリカのホワイトハウスもフランスのエリゼー宮も
「自分たちに任せてくれれば全てやってあげるのに」という
雰囲気になっています。

日本として何とも残念なことです。

———————————-抜粋、ここまで

 

このところ、政治献金問題で強制起訴された大物政治家が
元首批判、菅おろしと思しき発言をされています。

動機は異なるものの、交代には賛成。
しかしながら、与野党とも人材不足で交代要員がいません。

講演会後の懇親会で、手嶋さんとお話しできる機会をいただいたので
(手嶋さんは自ら会場を回られ、200人近い人々と名刺交換されたのです)
次期国家元首の候補をお尋ねしたら、輸入がお奨めとのことでした。

手嶋さんは大震災発生前から
インテリジェンス・サイクルを持たない日本の政治指導者たちの
特にリスク・マネジメントにおける、機能不全を指摘されてきました。
※インテリジェンス・サイクルなき政治指導者については
4/13記事「手嶋龍一流リーダーの条件(上)」から

もっと以前に、米国からクリントン国務長官あたりを輸入しておけば
東日本第震災による地震、津波、原発の3重苦のうち
原発による苦難はもう少し、軽減されていたのでしょうか。

これまでもこれからも、ホワイトハウスやエリゼ宮から
リーダーを輸入するのが、非現実的であるならば
FUKUSHIMAに舞い降りたブラックススワンがこれ以上
暴れないようにするために、政治指導者は何をすべきなのでしょう。

手嶋さんは次のように述べています。

 

———————————-以下、(上)から抜粋

「大災害や戦争には想定外の出来事は避けられない。

~想像すらできない事態を想定して備えておけ~

これは「核の時代の語り部」といわれた、アルバート・ウォルスタッター博士が
若い戦略家たちに言い聞かせていた有名な言葉です。

今度の大震災でも、原子力の専門家が想定していた規模を遥かに超える災厄が
現実のものになった段階で、緊急の指揮・命令系統を首相官邸に設置すべきでした」

———————————-以下、(上)から抜粋

政治指導者は、危機に臨んで決断を下し、結果責任をとる存在だからです。
政治指導者が決断を下すにあたって依拠するのがインテリジェンスです。

———————————-抜粋、ここまで

 

遅ればせではあるけれども、手嶋さんの説くインテリジェンス・サイクルを
政治指導者は早急に構築し、結果責任を負って決断を下すしかないようです。

そして、何よりも国民をもっと、信じて欲しいものです。
国民は政治指導者が思っているよりも、ずっと賢く、ずっと強い!

 

———————————-以下、(中)から抜粋

パニックを抑えようとして報道を歪めてしまい
それが国際社会の疑惑を呼び起こすという悪循環を招いてしまったのです。

今回の原発報道を見ていると、テレビを見ている人と
実際にテレビでコメントをしている人との有意差はまったくないに等しい。

———————————-以下、(上)から抜粋

パニックを起こしていないのは、被災地の一般の人々です。
一方で日本の政治指導部と東電は、浮足立って
決断する機能がメルトダウンしかけています。

冷静沈着な民衆とパニック寸前の政治指導部。
まことに奇妙なギャップを抱える構図になっています。

従来、日本に厳しい論調を張ってきた国のメディアすら
賞賛の声一色です。これほどの災厄を蒙りながら、
英語でいうselflessness、私を虚しうして、隣の人の命を気遣う。
こんな国はやはり世界では稀な存在といっていい。

———————————-以下、(上)から抜粋

人々にいたずらにパニックを引き起こさないよう、
問題の核心、そして真相をストレートに伝えないのは、やはり間違いでしょう。

現にこれだけの災厄に遭遇しながら、人々はどの国より冷静です。
正確な情報を開示しさえすれば、かなりの試練に耐える人たちです。

政府がなすべきは、一刻も早く東電と原子力保安院から主導権を取り戻すことです。
本当の意味の危機管理チームをつくって、総理の決断を誤りなきように
補佐する体制を整えなければなりません。

———————————-抜粋、ここまで

 

首相官邸にお願いします。

日本人はパニックを起こさず、助け合う力をもった民族です。

「念のため」「ただちには」といった、”気休めのリップサービス”は辞めて
事実に色をつけず、ストレートに伝えてください。
そして、日本の政治指導者への信頼性を修復してください。

被災地の方々のがまん強さ、被災地を支えようとする日本人の仁義。
それだけでは、日本を救うという、国際社会への大義に応えられません。

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2 Responses to “手嶋龍一流 リーダーの条件(下) ~メルトダウンする政治指導者へ~”

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