NHK特別番組『マイケル・サンデル 究極の選択 ~大震災特別講義~』が
昨夜4/16(土)21:00から73分にわたって、放送されました。

日々の生活の中で起こり得る出来事の中から
絶対的な答えのない究極の選択を学生たちにぶつけ
「君ならどうする?」と、投げかけてきた政治哲学者で
ハーバード大学教授のマイケル・サンデルさん。

その授業「Justice(正義)」には、毎回1000人を超える学生が集まり
アメリカ建国に先駆ける1636年創立の歴史を持つハーバード大学において
履修学生数の最高記録を更新しています。

教員と学生との対話によって進められる、いわばソクラテス方式の授業は
教育の最高の事例とも言われ、NHK番組「ハーバード白熱教室」をとおして
日本でも知られるところとなりました。

そのサンデルさんが、かつてない試練に直面した日本を激励するために
ボストン、上海、日本をつないで、各地の学生たちに問いを投げかけ
「私たちは何をすべきか」を考えるべきか、新たな指針を探ったのが
NHK特番『マイケル・サンデル 究極の選択 ~大震災特別講義』です。

3.11以後の過酷な状況においても、強盗も便乗値上げも起こらず
冷静に協力し合う日本人の姿には、世界から称賛の声があがっており
サンデルさんは日本人のこうした姿について、ボストン、上海の学生たちに
意見を求めるところから議論をスタートしました(YouTube画像はここ)

その後、ボストン、上海、東京の学生に加えて、日本の4人の有識者、著名人に
次のような質問を投げ、議論を深めていきました。

○危険な任務は誰が担うべきか
○高額な報酬での募集は公正か
○原子力への依存を続けるのか、減らしたり失くすのか
○わたしたちはグローバルな共感を持てるのか

サンデルさんの質問と学生や出演者の意見を聞きながら
大震災にみまわれた私たち日本人が、いま、いかに倫理や哲学の問題と
隣合わせに生きているかを実感しました。

質問のうち、「高額な報酬での募集は公正か」という問いについて
若い人たちの議論が展開された時には、何かしら違和感を覚えました。

高い報酬が必要であるという学生も、必要でないという学生も
報酬を「与える立場」からの発言のように聞こえ、いまも、危地において
危険な任務に就いている人たちに失礼ではないか、とはらはらしました。

出演者の意見も様々に割れましたが、作家の石田衣良さんが発言された時には
一緒に視聴していた家族とともに、思わず知らず、拍手をしてしまいました。

「今、高い報酬が前提の話しがずっと続いていますよね。
ですが、現実問題として、自衛隊の方も消防隊の方も
僅かな危険手当をもらっているだけで、ごく通常の給料で働いていることは
皆さん、忘れないでください」

サンデル教授がこの質問をした時、私はNYの9・11テロを思い出していました。
あの時も、NYの消防士さんや警察官がたくさん殉職されています。

9・11で仲間を亡くした消防士さんが、貿易センタービル最上階のレストランに
「銀婚式で初めて、妻を連れて行った」と…と語った新聞記事も思い出しました。

日本のビジネスマンが接待でならば、日常茶飯時に使うレストランに
銀婚式を迎えた妻をエスコートするような、堅い暮らしをされている消防士さん。

その仕事が危険であることを知っていて、その仕事に就いた方もいれば
もっと安全で、もっと給料の高い仕事とのご縁がなくて、という方もいるでしょう。
いずれにしても、危地に赴く方々は任務を使命と考え、危地へと発っていくのです。

使命とは、命を使うと書きます。

人事の募集の際に、高い報酬を示しても、使命ある人が応募するとはかぎらず
報酬に動機づけられたからといって、使命に欠けるともいえません。

一方で、報酬が高いことだけをよしとして、危険な任務に就く人もいます。

また、仕事が危険であってもなくても、給与には産業や職種による相場があり
相場はそれぞれの任務に対して、果たして「公正」なものかどうか…
その実勢は少なくとも、非常に「不公平」なもののようには思われます。

対価が高額でなかったとしても、危地に赴き、私たちを守る人がいるという
敬虔な事実を私たちはどのように受け止めたら、よいのでしょう。

東北出身の作家 宮沢賢治の童話「グスコー・ブドリの伝記」のストーリーを
生きている人がいま、この日本にいることに、畏敬の念を感じます。

こうした方々に感謝の気持ちをこめて、何かお礼をしたいものの
それは、むしろ、経済的な報酬ではないように思われます。

東京消防庁のハイパーレスキュー隊が福島第一原発に向かったのは
3/18(金)午前3時、ほぼ1カ月前のことです。

総監は「命じるのはつらいけれども…」と、派遣を発令したそうです。
総隊長の妻は「日本の救世主になってください」と見送ったそうです。

ハイパーレスキュー隊第一陣が帰還した時、隊長が記者会見で見せた涙
その重さと温かさをいまさらながら、思わずにいられません。

自衛官と親しい友人が、彼らが国民に対して期待することを尋ねた時
ある自衛官が、「敬意をはらって欲しい」と述べたそうです。

危地に赴く人に対する「公正」な報酬とは
むしろ、経済的な報酬ではないのかもしれません。

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